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福岡地方裁判所 昭和45年(行ウ)5号 判決

原告 千倉金満

被告 福岡県知事

主文

一  本件訴えを却下する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対し、昭和三三年八月一日福岡県三三公四、五四〇号をもつてなした化製場設置許可は現にその効力を有することを確認する。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は、被告より、昭和三三年八月一日福岡県三三公第四、五四〇号をもつて、営業所を大牟田市城町二丁目一二四とする化製場設置の許可(以下「本件化製場」及び「本件許可」という。)を受け現在に至つている。

2  原告は、本件化製場を飼料の製造を目的として設置し、当初は獣骨処理による飼料等の製造をなしていたが、昭和三四年一〇月ころより右獣骨処理に加えて羽毛処理による飼料製造を併用したので、そのころ、口頭で大牟田保健所長を経て福岡県知事に対し取扱原料の種目の変更の届出をなした(当時は書面での届出を要する旨の行政指導はなかつた。)。

3  原告は、本件化製場設置当時は天日を利用して飼料の乾燥をなしていたが、かねてより大牟田保健所から人工乾燥に切り替えるよう行政指導がなされていたので、昭和三六年ころより人工乾燥及びそれに付随する付属設備を設置したが、それは本件化製場の構造設備自体を基本的に変更したものではなく、したがつて、右設置によつても本件化製場の設備の同一性は何ら害されていない。

4  ところで、へい獣処理場等に関する法律(以下「法」という。)三条二項によると、へい獣処理場の施設又は区域を変更しようとする者は、都道府県知事の許可を受けなければならないところ、原告は前項で述べたとおり本件化製場の施設又は区域を変更したことはない。また、別紙記載の「へい獣処理場等に関する法律の疑義について」と題する厚生省環境衛生局乳肉衛生課長回答(以下「本件回答」という。)のうち設問2についての回答によると、法一条五項の規定による化製場としての許可を既に受けており、従前の構造設備の変更を要しない場合は、羽毛を原料として飼料を製造することになつても、あらたな許可を要せず、へい獣処理場等に関する法律施行規則(以下「規則」という。)三条の規定に準じて品目変更の届出をすれば足り、更に同条によると、その届出方法は保健所長を経て都道府県知事に届け出ることになつているところ、原告は昭和三四年一〇月ころより獣骨処理による飼料の製造に加え羽毛処理による飼料製造を併用したので、そのころ被告に大牟田保健所長を経てその旨届け出たことは前記2項で述べたとおりである。

5  そして、そもそも営業許可が失効するには、当該許可がいつたん与えられた以上、その許可を受けた者が、当該営業を廃止するか、事実上第三者に営業譲渡をなし当該営業から一切手をひくか、あるいは死亡するか、または、当該営業施設自体が滅失する等、客観的外形的に明白に許可が失効したと認められる場合を除いては、許可権者の許可取り消し等の明白な意思表示(行政処分)が必要であると解されるところ、本件許可にあつては、客観的外形的に明白な許可失効に該当するような事由もなく、また許可取り消しに関する行政処分もなされていないにも拘らず、被告は、原告が昭和四五年二月七日付で届出をなした化製場処理品目追加変更及び化製場設置者の住所変更届に対して、本件許可が失効している、即ち、原告は昭和三六年一二月ころ本件化製場を廃止し、爾後新たに千倉達美が無許可にて本件化製場を使用して羽毛処理による飼料製造をなしているとして、右届出を受理しない。

よつて、原告は被告に対し、本件許可が現在もなお有効に効力を有していることの確認を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実中、本件許可の事実は認める。

2  同2の事実中、原告が本件化製場を飼料の製造を目的として設置し、当初は獣骨処理による飼料等の製造をなしていた事実及び昭和三四年一〇月ころより右獣骨処理に加えて羽毛処理による飼料製造を併用した事実は認めるが、その余の事実は否認する。

3  同3の事実は否認する。詳細は次項の被告の主張で述べるとおりである。

4  同4の事実は争う。詳細は次項の被告の主張で述べるとおりである。

5  同5の事実中、被告が、原告が昭和四五年二月七日付で届出をなした化製場処理品目追加変更及び化製場設置者の住所変更届に対して、本件許可が失効している、即ち、原告は昭和三六年一二月ころ本件化製場を廃止し、爾後新たに千倉達美が無許可にて本件化製場を使用して羽毛処理による飼料製造をなしているとして、右届出を受理しない事実は認める。

三  被告の主張

1  原告は、へい獣処理による飼料製造に対する本件許可は、現に行われている羽毛処理による飼料の製造に対する許可をも包括することを前提として、本件許可が現在もなお有効に効力を有することの確認を求めている。

しかしながら、本件許可は、羽毛処理による飼料の製造に対する許可を包括するものではない。即ち、法一条五項によると、化製場は獣畜を原料とする処理施設で羽毛のもとになる鳥類はこれに含まれず、羽毛を原料とする処理施設は法八条による別施設である。したがつて、この両施設に対する許可は別制度となつており、化製場の許可を有していても、原料が獣骨から羽毛に変われば、法八条により準用される法三条一項の許可が必要なのである。

ところで、原告は、本件回答のうち設問2についての回答を根拠として、本件の場合は従前の構造設備に変更はないので法八条準用の許可は不必要で規則三条の規定に準じた品目変更届で足るとし、これによつて本件許可に羽毛処理による飼料製造の許可も含まれる旨主張する。

しかしながら、右回答は、その設問2によつて明らかなとおり、化製場の許可を受け、その営業もしている中で羽毛処理による飼料製造を行つた場合について答えたもので、原告の場合は、昭和三六年一二月ころには獣骨による製造は全くなくなり羽毛処理のみによる飼料製造を行うに至つたものであるから、右回答を根拠とすることはできない。のみならず、本件構造設備は、昭和三三年の許可当時は別紙図面(一)記載の状況にあつたが、昭和三九年一二月二七日ころには別紙図面(二)記載の状況に変更され(本件許可に際し、右図面(一)記載の化製室の部分に乾燥器を設置することを条件として付していたが、右年月日ころには右図面(二)記載の倉庫部分に乾燥器を設置していた。)、更に昭和四三年三月二二日ころには、別決図面(三)記載の状況に変更された(本件許可に際しては、右図面(一)記載の化製室の部分が製造場とされていたが、右年月日ころには右図面(三)記載の乾燥機、原料貯蔵室の部分が製造場と変わつていた。)。この状況の事実は、本件回答2にいう従前の構造設備の変更にも該当するもので、これをもつてしても原告の主張は根拠がない。

2  本件許可は既に失効している。

法三条一項の許可は、いわゆる業態別、対物的許可であり、更に対人的許可でもある。したがつて、これらの許可の対象となる要素を勘案して許可施設としての当該施設が同一性を失つたと認むべき場合は、取消処分を待つまでもなく許可そのものが失効することは至極当然のことといわなければならない。

そこで、これを本件についてみるに、前項で述べたとおりの品目及び構造設備の変更並びに本件化製場の実質上の支配者、即ち許可対象としての人的要素が原告から千倉達美に変更されている事実に鑑みるとき、本件許可は、少なくとも昭和三六年一二月には施設の同一性を失つたことにより当然失効したといわざるをえない。

第三証拠〈省略〉

理由

一  原告が自らを本件化製場の設置者として本件許可を受けたことは当事者間に争いがない。

いずれも成立に争いのない甲第五及び第八号証(第五号証については原本の存在についても争いがない。)並びに弁論の全趣旨を総合すると、本件化製場の実質上の設置者は原告の弟である千倉達美であり、原告を設置者として本件許可を受けたのは単なる便宜上の理由からにすぎないことを認めることができる。即ち、達美は昭和二三年ころ本件化製場の設置場所において同人所有の化製場を設置し、千倉化製工業所なる名称で右化製場を経営管理し、獣骨を原料として肥料あるいは油の製造をしていたところ、原告が昭和二四年ころから右工業所で働くことになつたのであるが、右工業所の経営及び管理の実権は依然として達美が握つており、原告は達美から営業利益に応じた一定の金員を受けるという一従業員的地位にあつたにすぎなかつたのにかかわらず、昭和二四年ころ初めて右化製場営業の許可を大牟田保健所から受けるにあたり、便宜的に兄である原告名義で許可を受け、更にその後の本件許可も右同様便宜的に原告名義で受けたことを認めることができ、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

そして、前掲各証拠にいずれも成立に争いのない甲第六、第七号証及び乙第三号証(甲第六及び第七号証については原本の存在についても争いがない。)並びに証人仲道正一及び同坂口為則の各証言を総合すると、本件許可後現在に至るまで本件化製場の経営及び管理の実権を一貫して原告ではなく達美が握つていることを認めることができる。即ち、原告は本件許可を受けたころからおよそ一〇年間程は本件化製場に勤務することなく、九州フエルトに三、四年、その後松岡テントに三、四年、更にその後大和炭素に勤務するといつた状態で、その間達美が本件化製場を経営管理し、原告は本件許可の名義料名下に盆と正月とに各金四、五万円程を達美から受取つていたにすぎないこと、そして、原告は昭和四五年ころから再び本件化製場に勤務するに至つたのであるが、その後も達美から一定額の給料を受け取るにすぎない一従業員的地位にあることを認めることができる。もつとも、いずれも成立に争いのない甲第三及び第四号証によれば、原告名義で昭和四五年二月七日付で被告宛に本件化製場の化製場処理品目追加変更届及び化製場設置者住所変更届がなされていることが認められるが、他方前掲各証拠によれば、本件許可当時から現在に至るまでの大牟田保健所あるいは福岡県の種々の行政指導は事実上達美を相手方としてなされており、同保健所あるいは同県の本件化製場への立入検査の際の立会あるいは交渉にも達美があたつているほか、昭和四〇年一〇月ころの県からの本件化製場合理化資金五〇〇万円の借入も達美がなすなど、対外的にも達美が本件化製場の設置者及び管理者として現在まで活動していることが認められ、これらの事実に照らすと、右変更届等は、本件許可が原告名義でなされていることから、達美が便宜的に原告名義でなしたものと認めるのが相当である。

二  ところで、原告は、原告が昭和四五年二月七日付で被告に対してなした本件化製場の化製場処理品目追加変更届及び化製場設置者住所変更届出に対し、被告は本件許可が既にその効力を失つているとの理由により右届出を受理しないから、本件許可が現在もなお有効に効力を有する旨の確認を求める必要があると主張する。

しかしながら、法によれば、化製場の設置については県知事の許可を必要とするほか、その設置者あるいは管理者は、化製場の設置及び管理につき種々の負担を負うことが認められる(法五条、六条、六条の二、七条等)ところであるが、本件化製場の設置及び管理者は達美であり、原告は達美が経営する本件化製場の一従業員的地位を有するにすぎず、右届出は達美が便宜上原告名義でなしたにすぎないことは前認定のとおりであつて、原告は、本件化製場の設置者あるいは管理者として右のごとき義務と負担を負う地位に置かれていないものというべきである。

右に述べた関係は、次の事実からも窺い知ることができる。即ち、いずれも成立に争いのない甲第八ないし第一〇号証によれば、達美は、法定の許可を受けることなく昭和三九年頃以降本件化製場において鳥類の羽毛を原料とする飼料の製造施設を設けたとの法違反の被告事件につき、昭和五一年三月一五日福岡地方裁判所久留米支部において有罪の判決言渡を受け、福岡高等裁判所に控訴申立てをして現に審理を受けているものであるところ、同被告事件における達美の主張の要点は、本件許可は法八条に定める鳥類等を原料とする飼料その他の製造施設等の設置許可を基本的に包摂するものであるから、本件許可がある以上改めて法八条の許可を要しないというにあることが認められる。してみると、仮に、本件で原告が主張するように、本件化製場の昭和三九年頃以降における施設及び操業の実態が本件許可の効力の範囲内に属するものとするならば、右被告事件における達美の主張もその限りにおいて根拠を有することとなる関係にあるといえようが、右の達美の主張が理由があるか否かは右被告事件において判断されるべき事項であつて、仮に本訴においてどのような判断がなされたとしても、右被告事件の審判に影響を及ぼすものでないことはもちろん、右被告事件の帰すうが原告の法律上の地位を左右する関係にないことも明らかである。

案ずるに、行政処分が有効であることの確認を求める訴えは、その旨の判決をうることによつて直接に原告の法律上の地位の不安定が除去される等の法律上の利益があり、かつ現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができない場合においては、適法な訴えとして許されると解すべきであるけれども、前認定のとおり、本件許可処分及び本件化製場の設置、管理に関し便宜上達美のためにいわば名義を貸したにすぎない原告は、本件許可の有効を確認しなければ、法律上の地位に不安定を来たすか、その他右確認を求めるにつき法律上の利益を有すると解することはできず、このことは、原告主張の変更届出等を被告が受理しなかつたとの事実を考慮しても変わりはないといわざるをえない。

三  以上の次第であつて、原告の本訴請求は、その余の点を判断するまでもなく不適法として却下すべく、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 南新吾 小川良昭 萱嶋正之)

別紙〈省略〉

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